
「献体をしたら、お葬式はできないのですか?」
そんなご質問をいただくことがあります。
献体とは、医学の発展のために、亡くなった後のご遺体を大学の解剖実習に提供すること。ご遺体は大学に引き渡され、火葬も大学側が行います。遺骨が戻ってくるのは、1年から2年後。
通夜も告別式もない。遺体のないお別れ。多くのご遺族が、「自分たちには何もできないのでは」と感じています。
でも、そんなことはありません。
この記事では、実際に献体を選ばれたご遺族が、どのようにお別れの場を作り、どんな想いでその日を迎えたのかをご紹介します。ご遺族のご協力のもと、いただいた言葉をそのままお伝えします。

「自分もそうしたい」──献体を受け入れたご家族の気持ち
故人が献体に興味を持たれたのは、亡くなる15年ほど前のことでした。新聞に入っていたパンフレットを見つけ、説明会に参加し、ご自身の意思を固められたそうです。
その後、ご家族全員に話をし、全員が同意。医療機関への献体契約書に、家族全員が署名・捺印をされました。
ご遺族に「最初にどう感じたか」をお聞きしたところ、こんな言葉が返ってきました。
「そういう制度があるのか、という印象で、難しい堅い印象や否定的な気持ちは一切なく、むしろ自分もそうしたいと感じました」
献体先の医療機関が火葬まで行ってくれること、お墓を持たないという家族の方針とも合っていたこと。不安に感じたことは何もなかった、とのことです。
亡くなった日──病院での限られた時間

亡くなられたのは午後1時頃。その1〜2時間後に、献体先の医療機関に連絡。午後8時頃には、ご遺体の引き取りが行われました。
ここでひとつ、幸運なことがありました。入院先の病院が配慮してくださり、引き取りまでの間、遺体安置所を使わせてもらえたのです。
「普通はそんなに長い時間、遺体安置所を使用できないらしいと後で知りました。個人的には、会社を早退して、自分なりに故人とのお別れはできたと思っています」
献体の場合、通常の葬儀と違い、亡くなってから遺体が引き渡されるまでの時間は非常に短い。「故人の姿を見ていられる時間は、短いのかもしれない」と、ご遺族は振り返ります。
ここに、献体を考える方が事前に知っておくべきことがあります。病院の遺体安置所では、ゆっくりとお別れする時間がないことがある。今回は病院の好意に助けられましたが、すべてのケースでそうなるとは限りません。
4ヶ月後、故人の誕生日にお別れ会を開いた
身内の中ではそれなりのお別れができた。でも、故人がお世話になった方々や親族に対しては、お礼やお別れを言う場が必要なのではないか。
そう考えたご遺族は、「お別れの会」を開くことを決められました。時期については、2つの案がありました。
- 案1:献体した遺骨が戻ってくる1〜2年後に、遺骨とともにお別れ会を行う
- 案2:待たずに、近い時期に開催する
最終的に選ばれたのは、案2でした。理由は、親族に高齢の方がいること。そして、4ヶ月後がちょうど故人のお誕生日だったこと。
故人の誕生日に、お別れの会を開く。悲しみだけではない、その人が生きてきたことを祝う日にもなる。素敵な選択だと思いました。
「希望通りのお別れ会ができました」

ご遺族には、お別れの会について具体的なイメージがありました。
- 大きな遺影は飾らない
- ごくごくシンプルに
- 会社の忘年会みたいな感覚でありながらも、故人や来てくれた方に敬意を表せるような雰囲気の場所であること
- スライドショーだけは実施したい
形式ばった告別式ではない。かといって、ただの食事会でもない。「その間」にある、ちょうどいいお別れの形を求めていらっしゃいました。
ご遺族はインターネットでさまざまな情報を集め、比較検討をされた中で、私たちに辿り着いてくださいました。
ただ、お仕事がお忙しく、会場探しから段取りまでご自身で進める時間がない。私たちはご遺族の希望をお聞きした上で、会場の候補選びと下見を代行し、写真を撮って導線の設計まで行いました。当日のスケジュール作成やホテルとの交渉もすべて間に入り、ご遺族の負担をできるだけ減らすことを心がけました。
打ち合わせはほとんどメールで進め、対面でお会いしたのは一度だけ。「一回で済ませたい」というご希望に沿い、必要な確認をすべてその場で終えられるよう資料を整えてお持ちしました。
「開催場所から内容まで、全て希望通りのお別れの会をすることができました」
遺体のないお別れ会──葬儀社が入ると何が変わるのか
「お別れ会をやりたい」と思っても、何から始めればいいかわからない方がほとんどです。
ホテルに直接相談する方もいらっしゃいますが、ホテルの担当者は宴会のプロであって、弔いの場のプロではありません。故人を偲ぶ時間の作り方、参列者の気持ちへの配慮、スライドショーのタイミング、献花の段取り──そうした「儀式としての設計」は、ホテルの宴会担当には馴染みのない領域です。
私たちは葬儀社です。25年間、儀式を設計してきました。
通夜や告別式だけが儀式ではありません。遺体がなくても、祭壇がなくても、読経がなくても、人が集まって故人を偲ぶ時間は、立派な儀式です。その場にふさわしい空気をどう作るか。ご遺族の「こうしたい」をどう形にするか。それが私たちの仕事です。
そして、葬祭費7万円が支給された

お別れ会が無事に終わった後、私たちはひとつのことに気づきました。
「このケース、葬祭費の申請ができるのではないか」
献体をした場合、多くのご遺族が「葬儀をしていないから葬祭費は対象外」と思い込んでいます。大学も、ホテルも、役所も、誰もそのことを教えてくれません。
でも、自治体によっては、偲ぶ会やお別れ会であっても──それが故人を弔う目的で行われたものであれば──「葬祭」として認められるケースがあります。
ご遺族にこのことをお伝えしたところ、ご本人もご存じなかった。自治体に確認していただいた結果、受給要件を満たしていることがわかり、東京23区内で葬祭費7万円が支給されました。
「教えていただき、感謝しております」
7万円という金額以上に、「誰も教えてくれなかったことを、教えてもらえた」という安心感が、ご遺族にとっては大きかったのだと感じます。
葬祭費の申請条件や手順の詳細については、関連記事でご案内しています。
献体を考えている方、そのご家族へ
今回のご遺族から、これから献体を考える方へのメッセージをいただいています。
「お墓の考え方や故人の弔い方は、本当に人それぞれ。自分は『こうありたい』という思いと、残された家族の思いも違う。ただ、事前にしっかりと話し合いをしておくと、だいぶ違うのかもしれないなと感じました」
このご家族は、故人が元気なうちに家族全員で話し合い、献体に同意していました。お墓を持たないという方針も、生前に共有されていました。だからこそ、亡くなった後に慌てることなく、時間をかけて納得のいくお別れ会を実現できた。
遺骨が戻ってきた後は、海洋散骨か樹木葬を予定されているとのこと。お墓を持たず、献体で医学に貢献し、最後は自然に還る。その一貫した想いが、ご家族の間で共有されていることが、何よりの備えなのだと感じます。
→ 関連記事:海洋散骨という選択──お墓を持たないおひとりさまが「海に還る」ということ
献体は、故人の崇高な意思です。医学の未来に自らの身を捧げるその決断を、ご遺族が尊重されたこと自体が、すでに深い供養だと思います。
そして、献体をしても「ちゃんと送る」ことはできます。遺体がなくても、人が集まり、故人を偲び、感謝を伝える場を作ることはできる。
「改めて感じたことは、本当に、納得のいくお別れの会ができて良かったということです」

まとめ
- 献体をしても、お別れ会・偲ぶ会を開くことは可能です
- お別れ会は、葬儀社が入ることで「儀式」としての質が格段に変わります
- 献体後のお別れ会でも、葬祭費(5〜7万円)が支給される場合があります
- 大切なのは、生前に家族で話し合い、方針を共有しておくこと
「献体を考えているけど、お別れはどうすればいいのか」
「お別れ会の段取りがわからない」
そんな方は、お気軽にご相談ください。
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この記事について
株式会社和(なごみ)
警視庁専門葬儀社での25年間、年間3,000件、累計5万件以上の葬送の現場から生まれた知見をもとに執筆しています。おひとりさま向け終活支援「そろそろ®」、TOKYO直葬サービスを運営。
「死に方は選べなくても、送られ方は選べる」 そろそろ®️終活 | 株式会社和

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