身寄りがない人が亡くなったら、何が起きるのか

──現場25年が見てきた、「ひとり」の最期のリアル

東京・都内アパートの廊下。夏の終わり、その扉は静かに閉じられていた。

これは、私が警視庁の専認葬儀社として働きはじめた頃に見た、ある光景の話です。

夏の終わり、東京都内のアパートの一室。連絡が来たのは、ご近所の方からではなく、管理会社からでした。「家賃の振り込みがなく、ドアを叩いても反応がない」と。警察が立ち入ると、そこには70代の男性が、静かに横たわっていました。

室内には、たった一枚のメモ。「迷惑をかけて申し訳ない」。それだけでした。

お名前はわかりました。でも、家族に連絡しようにも、手がかりがない。役所に問い合わせてもわかるのは戸籍上のことだけで、実際の「つながり」は何も残っていなかった。

私はその方の最期の儀式を、行政の委託として執り行いました。会葬者はゼロ。手を合わせてくれた人は、私だけでした。

あれから25年、累計5万件を超える現場を経験してきた今も、あの部屋の温度を忘れられません。

「身寄りがない人が亡くなったら、何が起きるのか」。今日はその問いに、現場からお答えしたいと思います。

目次

まず、「誰が動くのか」という問題から始まる

身寄りのない方が亡くなった場合、最初に動くのは原則として「行政(市区町村)」です。

死亡の事実が確認されると、自治体は戸籍をたどって親族を探します。しかし現実には、長年疎遠になっていて連絡がとれない、あるいは親族自体がいないというケースが少なくありません。

親族が見つからない、もしくは全員が「引き取り拒否」した場合、自治体は「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」として対応します。これは、身元不明や引き取り手のない遺体に対して国が定めた手続きです。

【行旅死亡人とは】

身元が判明しないか、引き取り手のいない遺体に適用される法的区分。自治体が火葬・埋葬を行い、費用は公費から支出される。遺骨は一定期間保管後、無縁墓地に合葬される。

◆ 火葬・埋葬は行政が代行する

引き取り手のいない場合、自治体が火葬を執り行います。儀式はほぼなく、いわゆる「直葬」に近い形です。費用は自治体が立て替え、後日遺産から回収されます(遺産がなければ公費負担)。

遺骨は、しばらくの間役所や斎場で保管されますが、引き取り手がなければ最終的に「無縁塔」「合葬墓」に納められます。名前が刻まれることもなく、誰も手を合わせにこない場所で、ひっそりと眠ることになります。

これが、「備えがなかった場合」のリアルです。

会葬者のいない祭壇。静寂の中で執り行われる、ひとつの別れ。

遺産・財産はどうなるのか

「財産なんてないから関係ない」と思う方も多いのですが、現実はそう単純ではありません。銀行口座、国民年金の未支給分、保険金、不動産──これらすべてが「遺産」として扱われます。

◆ まず、相続人がいるかどうか調べる

相続人(法定相続人)がいる場合は、その方に財産が移ります。相続人は法律で定められており、配偶者・子・親・兄弟姉妹の順に優先されます。

問題は「相続人は存在するが、誰も名乗り出ない」「相続人が全員相続放棄をした」場合です。この場合、財産は宙に浮いた状態になります。

◆ 相続財産管理人が選任される

相続人がいない、または全員が放棄した場合、家庭裁判所が「相続財産清算人(相続財産管理人)」を選任します。弁護士や司法書士などの専門家が就任し、財産の調査・管理・清算を行います。

この手続きには数ヶ月から1年以上かかることも多く、その間、故人の財産は凍結されたままです。銀行口座からお金を引き出すことも、不動産を処分することも、誰もできません。

◆ 最終的に財産は国庫へ

清算が終わっても引き取り手がなかった財産は、最終的に「国庫(こっこ)」に帰属します。つまり、国のものになるということです。

あなたが長年大切にしてきた貯金も、思い出の詰まった実家も、誰に渡したいかを表明しなければ、最終的には国に没収されます。これが現行制度の現実です。

【数字で見るひとりの最期】

  • 孤独死の推計件数:年間約3万人(2023年、日本少額短期保険協会)
  • 身元引受人のいない遺体処理件数:増加傾向(自治体負担が社会問題化)
  • 相続財産の国庫帰属件数:近年急増中
遺産・手続きの書類。「誰も動かなければ、財産は国のものになる」という現実。

「備え」があれば、何が変わるのか

ここまで読んで、重苦しい気持ちになった方もいるかもしれません。でも、私がこれを書くのは、絶望してほしいからではありません。「備え」があれば、この状況は大きく変えられるからです。

◆ 死後事務委任契約──「最後の約束」を信頼できる人と

死後事務委任契約とは、自分の死後に必要な手続き(役所への届出、医療費の清算、葬儀の手配、家財の処分など)を、信頼できる第三者(専門家・法人)に委任する契約です。

これがあれば、行政任せの「処理」ではなく、自分が望んだ形で最期を迎えることができます。

◆ 遺言書──財産の行き先を自分で決める

遺言書を作成しておけば、財産を国庫に没収されることなく、自分が望む相手(友人、NPO、寺院、慈善団体など)に渡すことができます。「遺贈寄付」として社会の役に立てることも可能です。

◆ 葬儀信託──「送られ方」を自分で設計する

葬儀信託とは、生前に葬儀費用を信託口座に預け、自分の希望通りの葬儀が行われることを確保するしくみです。「そろそろ」では、東京の信託口座を活用したこのサービスをご提供しています。

「直葬で十分」という方も、「小さくてもお経をあげてほしい」という方も、その意思を正式に残しておくことで、自分らしい最期を実現できます。

「そろそろ」では、ひとりひとりの状況に寄り添った無料相談を行っています。

「供養される権利」は、準備した人にだけ宿る

私は25年の経験の中で、一つの確信を持ちました。

死に方は選べない。でも、送られ方は選べる。

行政に委ねた場合の「処理」と、自分で設計した「見送り」の間には、天と地ほどの差があります。誰かに手を合わせてもらえるかどうか。名前を呼んでもらえるかどうか。

これを私は「供養される権利」と呼んでいます。そしてその権利は、準備した人だけが行使できるのです。

「自分が死んだ後のことなんて、わからなくていい」という声も聞きます。でも、私が見てきた現場の数だけ、「備えておけばよかった」という無言の問いがありました。

ひとりで生きることを選んだあなたには、ひとりで逝くことへの不安を、誰かに預ける権利があります。

手を合わせてもらえる場所があること。それが「供養される権利」の形。

まとめ:「他人事」ではなく「今日から始めること」

  • 身寄りのない方が亡くなった場合、行政が動き、葬儀は公費で「処理」される
  • 財産は相続財産管理人による清算を経て、最終的に国庫に帰属する
  • 死後事務委任契約・遺言書・葬儀信託の3つが「備え」の基本
  • 「供養される権利」は、準備した人だけが持てる

まずは「何をすべきかわからない」その一歩から、一緒に考えさせてください。「そろそろ」では、おひとりさまのための無料相談を随時受け付けております。

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