
妻の父の連絡先は、私たちの結婚式の日も、わからないままでした。
招待状を送ることもできなかった。どこで何をしているのか、生きているのかどうかも、はっきりとは知らなかった。妻にとって父とは、もうずっと前に、人生から退場していった人でした。
これは、葬儀屋として見てきた話ではありません。私自身が一人の婿として、家族として体験した話です。
「さようならをありがとうに変える」。私たちが掲げているこの言葉は、きれいな標語として作ったものではありません。この言葉には、原点があります。今日はその話をします。

二十年以上、いなかった人
妻が二十歳のとき、両親は離婚しました。
そこからの父は、ほとんど音信不通でした。特別な事件があったわけではありません。連絡が減り、途絶え、いつのまにか「いない人」になっていた。世の中にいくらでもある、よくある話です。
私が妻と出会ったときには、すでに父はいませんでした。だから私は、義父という人をほとんど知らずに、妻と家庭を築きました。子どもが生まれ、その子にとって、母方の祖父は存在しないも同然でした。
二十年以上の不在。それは、簡単に埋まるものではありません。埋めようと思って埋まるものでもない。妻も、もう埋めようとは思っていなかったはずです。

事務的な入口から、時間が戻ってきた
再びつながったきっかけは、義父のガンでした。
本人が告知を受け、入院することになった。そして、入院には保証人が必要だった。連絡が来たのは、その手続きのためです。
正直に書きます。再会の入口は、事務的なものでした。打算的にも見えるかもしれません。おそらく義父にとっても、私たちは「最後に頼れる引き取り先」という意味があったのだと思います。劇的な和解があったわけでも、長い手紙が届いたわけでもない。ただ、保証人が必要だった。それだけです。
でも、きっかけなど、それでいいのだと、今は思います。
立派な理由がなければ会いに行ってはいけない、なんてことはありません。事務的な入口で十分なのです。書類にサインをする。そのために病院へ行く。それだけのことから、止まっていた時間が、また動き始めました。
妻は、何度も面会に通いました。私もそれに付き添いました。孫を連れて行くこともありました。いなかったはずの祖父と、孫の時間が生まれました。
二十年以上の不在が、消えたわけではありません。失われた時間は、戻ってきません。それでも、最後に残された数ヶ月は、確かに本物の家族の時間でした。その両方が、同時に本当でした。

「ありがとう、ありがとう」
義父は、最期が近づくにつれて、モルヒネで意識が虚ろになっていきました。
会話が成り立たなくなり、こちらの言葉が届いているのかもわからない。そんな状態になっても、義父は言い続けていました。
「ありがとう、ありがとう」
意識が薄れていく中で、最後まで口から漏れていたのが、その言葉でした。
何に対する「ありがとう」だったのか、私にはわかりません。確かめる術もありません。でも、意識が消えかけてもなお残った言葉が、感謝だったのです。その事実だけで、私には十分でした。
二十年以上いなかった人が、最後に遺した言葉が「ありがとう」だった。その重さを、うまく説明することはできません。
義父の葬儀は、私が執り行いました。職業として何千もの葬儀を手がけてきた私が、自分の家族を、自分の手で送った。それは、私の仕事と人生がひとつに重なった、静かな一点でした。

関係は、最後の数ヶ月でも間に合う
私がこの話から学んだことは、ひとつです。
関係は、最後の数ヶ月でも間に合う。
何十年すれ違ってきた親子でも、最後の時間で、何かを取り戻すことはできる。それを間に合わせるために必要なのは、立派なきっかけでも、感動的な和解でもありません。ただ、会いに行くこと。それだけです。
「さようなら」は、悲しい別れの言葉です。でも、その「さようなら」を「ありがとう」に変えることは、できる。私はそれを、義父との最後の数ヶ月で知りました。
「さようならをありがとうに変える」という言葉は、先にあったのではありません。この体験が、先にありました。だからこの言葉は、私にとって標語ではなく、実感です。
もしあなたが今、誰かと疎遠になっていて、「今さら連絡してどうなる」と思っているなら。何も言いません。事情は人それぞれです。
ただ、私の身に起きたことだけは、ここに置いておきます。

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